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高脂血症のお薬・スタチンは、糖尿病を誘発する!?

  • 2019年7月26日
  • 読了時間: 7分

更新日:7月30日

「コレステロールを下げる薬剤・スタチンを服用している人は、糖尿病になりやすいのか?」

スタチンというお薬

コレステロールを劇的に下げる薬剤、通称スタチン、は、世界中で最もポピュラーな薬剤のひとつです。 現在、日本国内で発売されているスタチンは、以下の6種類があります。( )内は先発医薬品の名称です。 ①ロバスタチン(クレストール) ②ピタバスタチン(リバロ) ③アトルバスタチン(リピトール) ④フルバスタチン(ローコール) ⑤シンバスタチン(リポバス) ⑥プラバスタチン(メバロチン) このブログ記事をお読みくださっている人の中にも、どれかを服用している人があるかもしれません。 今日のブログのテーマは、このスタチンの最新の話題です。 これらのスタチンは、1980年代後半に三共製薬(現在の第一三共製薬)の遠藤章博士が世界に先駆けて開発したことに端を発し、すでに30年が経過します。悪玉コレステロール(LDLと略します)を劇的に低下させるの力を持っています。 たとえば、当院で、4月からスタチンを開始した患者Aさんの検査の推移(下の表)をご覧ください。 村の検診で数年間続けてLDLが高いと指摘されているAさんは、2018年12月に当院を受診されました。当院の栄養指導を受け、食事療法を開始し、さらに積極的に散歩もなさいました。その結果、当初205㎎/dLもあったLDLが、2019年3月に178(mg/dL)に下がりました。しかし、目標には及ばなかったために、ご本人と相談してスタチンを開始しました。その2か月後、再度採血検査を受けていただいたところ、LDLは89mg/dLまで、ちょうど半分に低下しました。

今年4月からスタチンを始めたところ、6月の検査ではLDLが半分に低下
今年4月からスタチンを始めたところ、6月の検査ではLDLが半分に低下

Aさんは、「うわ!こんなに下がるんですか!?ビックリ!」と目を丸くされました。 彼女に限らず、「いままで、どんなに食養生しても悪玉が下がらなかったのに・・・」「こんなことなら、もっと早くお薬を始めたら良かった・・・」などとおっしゃる患者さんも少なくありません。 スタチンによってLDLを長期にわたって低下させると、動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞の発症が抑えられる(発症する件数が減る)ことが知られています。 一度でもこのような血管が詰まる病気を起こした人は、再発を予防するためにスタチンの服用が強く勧められます。 まだ一度も血管が詰まる病気になったことがなくても、将来起こしやすい人(糖尿病、高血圧、腎臓病、肥満、喫煙)は、LDLを下げることが勧められています。その方法として、食事の工夫や適切な運動がありますが、LDLを下げる力としてはスタチンに優るものはありません。 それだけではなく、直接関係がないようにみえる慢性腎臓病においても、スタチンは腎機能障害の進行速度を抑制すると言われています。 ですので、生活習慣病が蔓延する先進国を中心に、世界中で本当にたくさんの人々がスタチンを服用しています(だから、遠藤博士は長い間ノーベル賞の有力候補でもありました)。 私も、血圧のお薬と同じくらい、頻繁に処方しています。

アメリカで行われた疫学研究

これほど素晴らしいお薬ではありますが、一部の人たちは、スタチンを服用すると糖尿病になりやすいのではないかと心配しているようです。 たとえば、つい最近も有名な医学雑誌に、次のような論文が発表されました(Diabetes Metab Res Rev. 2019 May 24:e3189. Statin users have an elevated risk of dysglycemia and new-onset-diabetes. Zigmont VA) ・米国オハイオ大学の研究者Zigmontさんたちは、2011年に心臓の血管が詰まる病気を起こした何千人もの患者さんのカルテを見直しました。 ・その後の3年間に、スタチンを服用した人755人と服用しなかった人3,928人に分けて、2011年~2014年までの間に、糖尿病を発症する比率が両者の間で異なるかどうかを詳細に検討しました。 ・ふたつのグループは、年齢、性別、肥満度などに大きな差はありませんでした。 ・その結果、スタチンを服用していた755人のうち112人(14.8%)が糖尿病になっていたが、服用しなかった人の中で糖尿病になった人は198人(5.0%)だけでした。 ・この頻度の差は、統計学で比較すると偶然とは言えず有意に高いと判断されました(つまり、スタチンを服用していた人たちに糖尿病が発症した率は、明らかに高かったと判断できる)。 このオハイオ大学の研究のように、自分たちが調べたいテーマを沢山の人々の過去の診療記録を元に解析検証していく方法を「後ろ向き研究」といいます。後ろ向き研究で得られた結果は、強く「そうだ」と言えるものではないのですが、「スタチンを服用する人は、スタチンを服用しない人よりも、糖尿病になりやすいかもしれない」という考えは、もっともらしいとみなされることになります。

この研究結果をどのように考えるか?

オハイオ大学のこの研究は、「2011年にオハイオ州で、スタチンを服用した心臓病の人たちは、スタチンを服用しなかった心臓病人よりも、糖尿病になった比率が高かった」と言えますが、 即「スタチンが糖尿病を起こしやすい薬」だと決めつけることはできません。 あくまで、今回の結果が示す事実は、「2011年にオハイオ州で、スタチンを服用した心臓病の人たちは、スタチンを服用しなかった心臓病人よりも、糖尿病になった比率が高かった」だけだからです。 このような結果になったことを単純にスタチンのせいだと断言するには、無理があります。 例えば、へそ曲がりの私は、こんな反証を抱きます。 「スタチンを服用した人は、LDLがあまりに劇的に低下したものだから、食養生するのを忘れてしまい、むしろ太ってしまう人が多かったのではないか?」と。 つまり、スタチンの薬理作用の結果ではなく、LDLが下がったことで人々の行動が変容した結果ではないかという、新たな疑問です。 同じような反論を試みる人は、他にもあるのではないでしょうか? 「スタチンを服用しなかった人は、薬に頼らず運動することに熱心だったから?」 「スタチンを服用しなかった人は、薬代が高くなることに危惧して、食養生や運動に熱心だったからではないか?」 つまり、スタチンを服用しなかった人たちには、糖尿病になりにくい性格や社会状況が存在していたかもしれないという、新たな疑問です。 このように「後ろ向き研究」には、得られた結論を強く支持することが出来ない弱点が存在します。 今回の研究を踏まえて、本当にスタチンを長期にわたって服用すると糖尿病になりやすいのかを、多くの研究者が調査していくことになると考えられます。もっと説得力の強い「前向き研究」が行われる可能性もあります(スタチンを服用する・しないの選別は、患者さんの好みや性格、医師の好みなどによって行うのではなく、誰の意図にも左右されずに振り分けて、何年間もこれからどうなるかを見ていくという手間のかかる方法です)。 その動向に注目したいと思います。

しかし、私は、もっと別の視点で今回のことを捉えたいのです。

効果ある薬剤を処方する医師のあるべき姿は?

医師として、本当に大事なことは?

今回の研究結果を、当然、意識することになります。既にスタチンを開始した患者さんの検査結果を改めて俯瞰することになるでしょう。今後、新たにスタチンを処方するとき、この研究結果が思考に影響を与えることにもなりそうです。 ですが、薬が悪さをしているとか、そんな視点ではなくて、もっと大きく物事を捉えたいのです。 以前に、痛風患者さんが尿酸値を下げる薬を服用したら、痛風に苦しむことがなくなっただけでなく、これを契機に食養生や運動療法をしなくなってしまい、数年の間にメタボリック症候群を起こしてしまったことを書きました。


スタチンもこれと同じこと。個々の患者さんが本当にしなければならないこと、つまり、運動や食事への関心を失ってしまわないかフォローしていく必要があります。 LDLがびっくりするくらい低下してしまうと、患者さん自身が気が緩んでしまう可能性がある。 いままでどうしても下がらなかったLDLが、劇的に低下したら、ルンルン気分になってしまうのも理解できます。 処方する医者も、LDLが下がるのをみて喜ぶだけの存在、単純にお薬処方を続けるだけの存在になり果てているのではないでしょうかか? 患者さんの養生や生活習慣を、常に気を配る存在になろうと改めて意を強くしました。

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